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【海外小売DX事例】SHEIN ー 急成長しているファッションECアプリの正体は?

SHEINの紹介

Amazonのダウンロード数を一時的に超えたファッションアプリ、その正体は中国企業

皆様は「SHEIN」というファッションのECアプリを聞いたことがありますか?実は2021年に一時的にAmazonを抜いて、米国のiOSおよびAndroidで最もダウンロードされたショッピングアプリになったほど、米国のZ世代を中心に人気が高いです。最近日本にも進出してきていますが、多くの方にとってはまだまだ謎の多いサービスでしょう。

SHEINは女性ファッション・コスメ・雑貨などの商品を中心に取り扱っており、北米マーケットを主戦場にしながら、現在は欧州・中東・インド・東南アジアなど200以上の国と地域に進出しています。実店舗は構えておらず、ECプラットフォームでの販売のみになっています。コロナ禍で世界的に消費が冷え込んでいる中にもかかわらず、SHEINは2020年に前年同月比約250%の成長を果たし、売上は100億ドルを突破しました。その規模は実にUNIQLOの1.5倍ほどでした。米国のファッション市場におけるシェアも約30%に上りました。

謎に包まれているSHEINですが、その正体は中国企業でした。CEOのクリス・シュウ(許仰天)は2008年にSHEINの前身であるウェディングドレス専門の越境EC「SheInside」を創業しました。ただし、SHEINは中国においてサプライチェーンを構築したものの、商品販売自体は展開していません。かつSHEINは存在感を意図的に消したのようにメディア取材も滅多に受けないため、中国人もほとんどが知りませんでした。この十数年、静かに成長してきたSHEINですが、2020年の資金調達で約300億ドルの価値がつけられ、IPO間際とのことで注目されるようになりました。

毎日数千点の新商品!豊富な商品数×低価格

SHEINの最もな特徴は、圧倒的に豊富な商品数と安さです。SHEINでは約60万種類の商品があり、毎日約数千点の新商品が次々と発売されます。

これほどの商品数を驚くスピードで発売する裏で、SHEINはビックデータに基づく商品開発のPDCAを回し続けています。検索データや顧客の行動データの分析によりファッショントレンドを精度高く予測し、そしていかに早く人気商品を生産・販売するかを徹底しています。

そして、SHEINが取り扱う商品の価格帯は数ドルから十数ドル前後です。10ドルのワンピース、4ドルのアウターなど、マクドナルドのランチと同じ金額でSHEINで服が買えるので、お財布に余裕がない若い女性にとっては、まさに天国とも言えるでしょう。この圧倒的な安さは、SHEINが十数年かけて、中国で作り上げたサプライチェーンがもたらす価格交渉力によって実現されています。ある調査によると、価格面でSHEINと匹敵するライバル企業は、ヨーロッパのPrimarkと米国のForever 21しかないとのことです。

確かに値段が安い分、SHEINの商品はあまり高品質ではありません。しかし、SHEINの主要な顧客である欧米の中低所得者層やZ世代にとって、1枚の服が何回着られるかはさほど重要ではないそうです。やはり豊富な商品数と低価格は彼らが最もSHEINに心を惹かれるポイントになっています。

それでは、SHEINがいかに今のビジネスモデルとサプライチェーンを作り上げることができたか、そのポイントについて解説してみたいと思います。

SHEINの成功の秘密

強力なビッグデータとアルゴリズムに基づく商品開発とマーケティング

SHEINの成功の秘密の一つは、強力なビックデータとアルゴリズムによって裏付けた商品開発とマーケティング手法だと言えます。美や感性を追求する伝統的なファッション企業と一線を画して、深圳で数百人規模のデジタル部門を有するSHEINは、データドリブンを踏襲するハイテク企業そのものです。

先ず、SHEINはあらゆるサードパーティーデータをかき集めて分析することで、よりリアルで本質的な潜在ニーズを掘り起こすようにしています。世の中のファッションブランドのウェブサイトをクローリングし、市場に出回る商品のパターン・柄・色・生地・価格のデータをくまなく収集してその傾向を分析しています。同時に、Google Trendなどのツールを活用し、パターン・色・生地などに関する検索キーワードを常時モニタリングしています。長年のデータ蓄積と分析モデルの構築によって、SHEINは精度高くファッショントレンドを予測できるようになってきています。例えば2018年には、その夏にレース生地が米国で流行ることの予測が当たっていました。

また、SHEINは毎日平均数千の新商品発売を実現するために、服の各パーツや要素を非常に細かく分解して、ネックライン・袖口・裾・色などのようにモジュール化しています。その組み合わせで無数の商品パターンを作り出しています。そして、来週はどのような流行のパーツや要素を取り込んで服を作るべきかは、前述したデータ分析のトレンド予測の結果によって決められています。いざ商品が発売されると、SHEINは何人がこの商品を閲覧したか、何人がカートに入れたかなど、ユーザーによるリアルタイムのフィードバックを得ながら、商品の生産量とデザインを細かく調整し、繰り返しテストを行います。

そして、SHEINは「Tiktok」のようにアルゴリズムを駆使して、アプリでユーザーのファーストパーティーデータに基づいてユーザーひとりひとりに合わせた商品を提案します。アプリを開くと、ユーザーの好みに合いそうな商品がずらりと並んでいます。このように消費者のことを知り尽くしたSHEINにはリピーターも多く、Similar Web(2022年2月時点)によると、アクセスの約38%はURL入力やブックマークからの直接のアクセス、45%を占める検索流入のうち、約半分も自然検索でのアクセスになっています。

「7日間」×「小ロット」、十年かけて作り上げた強靭なサプライチェーン

SHEINは商品の企画から生産・販売するまで、最速7日間のサイクルで実現できています。ロングセラーのベーシック商品を主軸にするUNIQLOの生産サイクルはおおよそ半年間、ファーストファッション系のZARAは最速14日間サイクルと言われています。また、SHEINが1回発注当たりのロット数も100~300件が中心であり、売れ行きが良ければ何回も再生産を行います。後発企業だったSHEINですが、十数年をかけて中国で強靭なサプライチェーンを作り上げることで、この爆速スピードで小ロットの生産を可能にしました。

もちろんSHEINは創業当初から、いきなりそれを実現できたわけではありません。SHEINの創業初期は中国にある無数の越境EC業者と同じように、ただ問屋から仕入れた商品を、Amazonなど経由して海外に輸出するビジネスを営んでいました。しかし、商品の量・質・発送時間も直接コントロールできず、独自のチャネルも持っていないため、顧客の購買体験は決して良いものではありませんでした。そこで2014年に、中国の広州に自社工場を立上げ、自ら生産とサプライチェーンの管理に携わるようになりました。

最初に広州に立てた自社工場では、毎日4000~5000個の生産で精一杯でした。生産が需要に追い付けないときは、SHEINが周辺の小規模工場と提携するようにしました。SHEINはすべての服のパーツと付属品を準備し、それを提携工場に送り、縫製作業を完了してもらいます。お互いに信頼関係を築いた後は、提携工場にはゼロからの生産も外注するようになりました。

小ロットのオーダーはパターンメーキングやスタッフが熟練するまでの初期投資が大きいため、最初はほとんどの工場は受けたくない状況でした。そこでより多くの工場と提携するためには、SHEINは工場にとって有利の条件を提示し、確実な支援を行ってきました。小規模工場は人もお金も注文も足りないため、SHEINは早ければ15日間サイクルで売掛金を支払い、場合によっては先払いすることで、小規模工場の資金繰り問題を解決しました。また、パターンメーキングの一部初期コストを負担したり、提携工場が増設するための貸付も行ったりしました。一連の施策により、工場は喜んでSHEINの小ロットのオーダーを引き受けるようになりました。現在SHEINは広州を中心に約2000軒の工場と提携しており、業界関係者によると、中国衣料品生産能力の約1/3はSHEINに充てられているとのことです。

上流から下流までのサプライチェーンのデジタル化と可視化

SHEINは安定したオーダーと資金繰りの支援体制によって、サプライヤーとの信頼関係を築けました。それだけではなく、SHEINは自社独自のSCMシステム(サプライチェーン・マネジメント・システム)をサプライヤーに提供することにより、上流から下流までのサプライチェーンをデジタル化と可視化することで、サプライヤーに対して強い価格交渉力とコントロールを手に入れることができました。

このSCMシステムを通じて、SHEINは毎日数千種類の商品のオーダーを、中国全国浦々のサプライヤーに渡しています。商品企画・デザイン・パターンメーキング・オーダーの受発注・生地の調達・生産・検品など、衣料品を生産するサプライチェーンの上流から下流までのあらゆるプロセスがデジタルで管理されるため、全てのプレイヤーが同じシステムを使ってコラボしながら、SHEINの生産に携わるようになっています。

そうすることで、SHEINは商品の設計段階から、緻密なモデルで販売価格・発注金額と原価を細かく計算でき、サプライヤーとWin-winになる発注金額を提示しています。また、サプライヤー間の取引のトランスペアレンシーも向上し、不正を防げるようになっています。例えばオーダーを受けたにもかかわらず、サプライヤーが指定した生地を調達していないのであれば、SHEINはそれをただちに検知できるようになります。更に、アナログ的な管理や複数システムを使う場合と比べて、SHEINのSCMシステムはサプライヤー側の生産効率向上にも寄与できています。

最後に:日本市場への影響と示唆

Real-Time Fashion時代の到来、日本ファッション企業の対応に今後要注目

ZARAやForever 21、UNIQLOなどの企業がFast Fashion時代を作り上げたと言うとすれば、SHEINの台頭はReal-Time Fashion時代の到来を意味しています。SHEINの競合も次々と出てきています。例えばTiktokも越境ECの布石を打っており、SHEINと非常に似たサービス—Dmonstudioを2021年11月にリリースしました(直近は理由不明の運営停止)。アリババでも小ロットで100枚から衣料品生産をオーダーできるようになっています。

そしてSHEINもついに日本に本格進出し始め、在日中国人コミュニティの中で、SHEINが東京で積極的に人材を採用していることも噂になっています。日本市場ではZOZOTOWNやUNIQLOとも今後競合するようになると思われます。もちろんReal-Time Fashionという概念自体も、サステナビリティなどの面で議論を呼んでいますが、日本のファッション企業もReal-Time Fashionの時代にどう対応していくか、今後注目していていきたいです。

ファッションに限らず、あらゆるカテゴリでSHEINのような企業の出現を期待

SHEINの事例研究を通じて個人的に特に興味が深いのは、今後ファッションに限らず、食品・インテリアなどあらゆるカテゴリで、SHEINのようなビジネスモデルを踏襲する企業が出現してくるでしょう。

もちろん日本企業にとって、SHEINの成功を丸ごとコピーすることは難しいと思いますが、少なくとも後進企業にとっては、データドリブンの手法とサプライチェーンのDX化が大きな競争力の源泉になることは、SHEINが証明してくれています。業界全体で上流から下流までのDX化は難しい課題ですが、SHEINが十年間をかけてコツコツ実現してきたように、企業が消費者に良いサービス・体験を提供することに忠実して、業界における市場シェアと交渉力を確立できれば、一気にゲームチェンジが起きる可能性を秘めていると信じます。

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